「AIを導入する前に、まず業務の棚卸しを」。この定番のアドバイスに、今日ははっきり異を唱えます。あれ、多くの会社にとっては酷な要求なんですよ。
もちろん、順番の話としては正しいんです。「AIを使ったほうがいいのは分かっているけれど、何から手をつければいいのか分からない」——相談の場でいちばんよく聞く言葉ですが、この状態のまま話題のツールを契約すると、数か月後にはほぼ誰も使っていません。私はそうなった現場を、何度も見てきました。だから「目的が先、道具は後」は動かない。
問題は、その「目的を決める作業」を人間が背負う前提になっていることなんですね。結論から言うと、棚卸しはAIにやらせればいい。順を追って話します。
ツールから入る導入は、順番が逆だ
まず、なぜツールから入ると続かないのか。構造は単純です。ツールを先に選ぶ、というのは、解決したい問題を決めていないということ。問題が決まっていなければ、効果は測れない。効果が測れなければ、続ける理由が誰にもない。だから続かないんです。
道具は、使い道が決まってはじめて役に立ちます。「AIで何ができますか」と道具に聞く前に、「うちの何を楽にしたいのか」が要る。ここまでは、よく言われる話ですよね。
でも「まず棚卸し」は、正直、酷だ
問題はここからです。じゃあ困りごとを書き出しましょう、業務を棚卸ししましょう——私も以前はそう言っていました。でも冷静に考えてみてほしいんです。棚卸しがきちんとできる会社なら、とっくにDXもICT化も進んでいます。
データもそれを裏付けています。中小機構の「中小企業のDX推進に関する調査」(2026年2月公表)によると、DXに「既に取り組んでいる」「取組みを検討している」企業を合わせても39.1%。前回調査からほぼ横ばいで、6割の会社は入口にも立てていない状況が続いています。こちらです。
参考1)中小機構「中小企業のDX推進に関する調査」(2026年2月)
中小企業のDX推進に関する調査(2025年)調査結果のポイント
全国の中小企業者等1,000社対象。DXに取り組む・検討する企業は39.1%で前回とほぼ横ばい。課題は専門人材の不足や予算の確保。
smrj.go.jpじゃあ何が障壁なのか。同調査では専門人材の不足と予算の確保が挙がっていまして、中小企業庁の「2025年版 中小企業白書」でも、取組段階を問わず「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」が問題点の上位です。
参考2)中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第1部第1章第5節(2025年)
DXに向けた取組の問題点として、いずれの取組段階でも「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」の回答割合が高い。
chusho.meti.go.jp要するに、時間も人もお金も足りない中で、整理よりも面倒さが勝つ。ずっとそうやって回ってきた。怠慢ではなくて、構造なんです。その現実を無視して「まず書き出せ」と言うのは、泳げない人に「まず泳ぎ方をノートにまとめろ」と言うようなものなんですね。酷なんですよ。
整理するな。散らかったまま、AIに放り込め
だから私は、順番を変えることを勧めています。人間が整理してからAIに渡すのではなく、散らかったまま、全部データ化してAIに放り込む。整理はAIの得意技なんだから、人間がやる必要はないんです。
放り込むものは、たとえばこのあたりです。きれいにする必要はまったくありません。
- 日報・週報、議事録、メールのやり取り
- 手順メモ、引き継ぎ資料、使い込んだExcel
- 紙しかないものは、スマホで撮るだけでもいい
そのうえで、AIに解析させて、AIの側から質問してもらう。「この作業、毎週発生していますが、誰がやっても同じ内容に見えます。自動化の候補では?」——こういう問いが、向こうから出てきます。つまり棚卸しは、人間が頑張る作業ではなく、AIとの対話の「出力」にする。書き出せない会社でも、放り込むことならできますよね。ここが入口です。
ちなみに先ほどの中小機構の調査では、DXの取組みとして「AIの活用」が28.4%と、前回から14.1ポイントの大幅増になっています。入口さえ越えた会社は、もうAIに向かっているんです。
それでも手が回らないなら、頼っていい
とはいえ、です。データ化する時間すらない、何をデータ化すればいいのかも分からない、紙の山を前に途方に暮れている——そういう状況があるのも、現場を見てきたのでよく分かります。
そういうときのために、私の会社では、この「放り込む前」の整理とデータ化から代行しています。棚卸しを求めない、と書いた以上、そこを丸ごと引き受けるのが筋だと思っているからです。
書き出せなくていい。放り込めばいい
AI活用の第一歩は、ツール選びでも、立派な業務棚卸しでもありません。手元にあるものを、散らかったままデータ化して、AIに放り込むこと。質問は、AIの側にさせればいい。それすら難しければ、人に頼っていい。始められない理由の大半は、「始める前の準備」を重くしすぎているだけ——私はそう考えています。
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